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103:【学生・社会人向け】文系(法学部など)目線で考える弁理士という職業の魅力について|令和4年度の弁理士試験の概要とともにお伝えします

弁理士は、知的財産の専門家としての国家資格者です。知的財産というと特許のイメージが強く、理系の職業と思われがちですが、実際のところはどうなっているのでしょうか。法学部卒の弁理士がその実態と、これから弁理士試験を目指そうという方に知っておいて欲しいことを、包み隠さずお伝えします。

目次


  • 弁理士の仕事内容
  • 弁理士になるには
  • 令和4年度弁理士試験の概要
  • 一発合格だけじゃない試験突破の方法〜免除制度について〜
  • 弁理士試験における文系の強み
  • 弁理士試験合格後にも文系の強みが
  • 司法試験と比較してみるとどうか
  • 受験から登録までの期間・負担がかなり違う
  • 知財に興味があればトライしてみよう

弁理士の仕事内容


弁理士(べんりし)という名前を見て、どのような印象を持たれたでしょうか。弁護士と税理士を足して割ったような名前だなとか、理系なのかなとか、さまざま印象を持たれたかもしれません。

弁理士というのは、1899年に始まった「特許代理業者」という制度に由来するものとされています。その後、1909年に「特許弁理士」に、そして1921年に「弁理士」に、その名を変えて今に至ります。

元々が1899年ですから、既に120年以上の歴史をもつ、伝統のある資格です。今では「弁理士」という表示が一般的ですが、昔は「辨理士」と書かれていた時代もあったようです。「辨」という字は、あまり見慣れないかもしれませんが、「わきまえる」という意味がありますので、「理をわきまえる」士業だというところでしょうか。知的財産の専門家としてピッタリなネーミングだなと感心したものです。

弁理士について、詳しくは以下のリンクもご覧ください。

日本弁理士会|弁理士制度120周年記念

上のリンク先にもあるように、特許代理業者制度が始まった時点では138人が名を連ねたようです。その後、人数が増減しながら、2013年にはとうとう10,000人を突破しました。2021年11月現在では、個人・法人合わせて12,017人が登録をしており、うち1,896人が(16.2% )が女性となっています。

さて、このような弁理士ですが、起源とされる「特許」について代理をする事業者である、この理解は間違っていないのですが、実はこれだけが業務というわけではありません。

これはどういうことでしょうか。冒頭、弁理士は知的財産の専門家だとお伝えしましたが、これは何も僕が勝手にそう呼んでいるのではなく、ちゃんと法律に書いてあります。後の話にも繋がるので、条文を挙げておきます。

第一条 弁理士は、知的財産(知的財産基本法(平成十四年法律第百二十二号)第二条第一項に規定する知的財産をいう。以下この条において同じ。)に関する専門家として、知的財産権(同条第二項に規定する知的財産権をいう。)の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする。

弁理士法第1条

そして、「知的財産」というのも法律に書いてあります。こちらもせっかくなので載せておきます。

第二条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。

知的財産基本法第2条第1項

このように、弁理士は特許のみならず、意匠、著作物、商標その他の知的財産全般の専門家として法律上規定されているということです。

発明や意匠、商標といったものについて特許庁に出願手続を行うというのが典型的な業務であると言えますが、これに付随して関連する事項を調査したり、あるいは特許庁の判断に対して反論・意見を述べたり、さらには特許庁における審判などに対応をしたりという業務もあります。特許庁以外ですと、たとえば模倣品(偽物)が見つかった時の税関対応というものもあります。

また、権利侵害に関して警告書を作成したり鑑定をしたりすることもあります。紛争が訴訟外で解決しない場合には、訴訟代理人として裁判所への手続を行うこともあります(余談ですが、東京地裁に入る時に弁理士バッジを着けていると、一般とは別の入口から入れます)。

このほか、知的財産の利用にあたっての契約のサポートをすることもありますし、企業の知財戦略の策定に関与してコンサルティングを行なったりすることもあります。企業が保有する知的財産をどのように金銭的に評価するのかという業務、さらには事業承継やM&Aの支援という業務も注目されています。

最近では、外国での権利を取得しようという中小企業も増えてきているので、海外への出願という業務も見逃せません。「国際出願」というフレーズを聞いたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。こうした国際的な業務があるゆえに、海外の企業や弁理士・弁護士とのネットワークが築けるというもの、他の士業ではなかなかみられない特徴的な部分かもしれません。

簡単に挙げるだけでもこのように幅広い業務があり、これら全てが、弁理士の活躍のフィールドだということになります。

弁理士になるには


さて、このように活躍のフィールドが広い弁理士という職業ですが、どうしたら弁理士になれるのでしょうか。弁理士法には、弁理士になれる人について、次の3つが列挙されています

⑴ 弁理士試験に合格した者

これはまさに王道ですね。一年に一回実施される弁理士試験に合格と、弁理士となることができます。これについては、この後詳しくお伝えします。

⑵ 弁護士となる資格を有する者

司法試験に合格し、司法修習を終えるまたは法務大臣の認定を受けると、弁護士になることができます。弁護士になることができる人は、改めて弁理士試験に合格しなくても弁理士になることができます。現役の弁護士で弁理士登録もしているという方は結構多い印象です。

⑶ 特許庁において審判官又は審査官として審判又は審査の事務に従事した期間が通算して7年以上になる者

特許庁で長年にわたって審判・審査実務を経験している場合も、弁理士試験に合格しなくても弁理士となることができます。特許庁を退官されて弁理士になるという方も少なくありません。

この記事を読まれている方の多くは、司法試験合格者でも特許庁職員でもないと思いますので、弁理士になるには、基本的には「弁理士試験に合格する」というミッションを達成する必要がある、そう理解していただいて宜しいと思います。

令和4年度弁理士試験の概要


では次に肝心の弁理士試験ですが、2022年1月18日付で、令和4年度弁理士試験の日程等が解禁になりました。細かいことは以下のリンクを熟読いただくとして、本記事では補足的な情報も交えながら簡単にまとめてみます。

特許庁|令和4年度弁理士試験公告

(1)短答式筆記試験

最初の関門であるマークシート式の試験です。受験資格は特にありません。願書を提出すると受験票が送られてきます。

3時間半の時間内に60問を解きます。特許法、実用新案法、意匠法、商標法、不正競争防止法、著作権法、条約が試験範囲です。

実施日:令和4年5月22日(日)
会場:東京、大阪、仙台、名古屋及び福岡

(2)論文式筆記試験

短答式筆記試験に合格すると受験資格が与えられます。問題文を読んで、文章を書いて答えるものになります。手書きなので慣れないと結構疲れます。必須科目と選択科目に分かれていて、日程もそれぞれで分かれています。

特許法・実用新案法で2時間で200点満点、意匠法と商標法はそれぞれ1時間半で、共に100点満点です。選択科目は、さまざまな分野に細分化されていますが、文系科目としては民法が用意されています。

<必須科目>

実施日:令和4年7月3日(日)
会場:東京及び大阪

<選択科目>

実施日:令和4年7月24日(日)
会場:東京及び大阪

(3)口述試験

論文式筆記試験にも合格すると受験資格が与えられます。試験官と対面で行う試験で、試験官の質問に対して口頭で答えるものになります。

ホテルの1フロアを借り切って行われ、特許法・実用新案法、意匠法、商標法の3つの部屋を順繰りにおおむね10分ずつ回って行きます。

一応手元には法文集(法律業界では「条文集」という表現の方が馴染みあるかと思いますが、知財業界では「法文集」と呼んでいます)が用意されますが、基本的には何も見ないで答えます。

実施日:令和4年10月22日(土)〜令和4年10月24日(月)のうちのいずれかの日
会場:東京

一発合格だけじゃない試験突破の方法〜免除制度について〜


このように大きく3段階に分かれている弁理士試験ですので、1回の受験でストレート合格をするというのは、なかなかハードルが高いかもしれません。

しかし、実のところ弁理士試験の短答式と論文式は、合格すると翌年以降の免除が認められています。短答式と論文式必須科目は合格後2年間、論文式選択科目は永年、再受験をした場合でも免除されます。

つまり、今年は短答式、来年は論文式、再来年は口述式にそれぞれ順繰りに合格して最終合格を果たす、というやり方ができるということです。これは司法試験では認められていない大きな違いです。

弁理士試験は5月、7月、10月に分かれている試験ですので、受験される方それぞれのご事情により、1回の受験でストレートに突破するというのが、そもそも日程的に難しいという場合もあるかと思います。

そういう場合には、ぜひこうした免除制度も活用しながら合格を目指して頂けたらと思います。

なお、もしあなたが次の資格を保有している場合には、論文式試験の選択科目が免除されますので、確認してみてください(他にも免除自由はたくさんありますので、詳しくは試験公告のページをご確認ください)。

⑴ 試験合格で足りる試験

  • 情報処理安全確保支援士試験
  • 情報処理技術者試験
  • 司法試験

⑵ 試験合格では足りずに登録や免状等の交付を受けないとならない資格

  • 司法書士
  • 行政書士
  • 技術士
  • 一級建築士
  • 第一種電気主任技術者
  • 第二種電気主任技術者
  • 薬剤師
  • 電気通信主任技術者

弁理士試験における文系の強み


上記でお伝えのように、弁理士試験の試験科目は、選択科目で理系科目を選ばない限り、法律科目だけの試験ということになります。つまり、理系知識がないとしても、問われることは法律の条文と、これに関する裁判例や審査基準などの内容となります。

このため、特定の技術分野についての知識があることが何か有利に働くというものではなく、むしろ法律についての学習経験があることで、他の受験生よりも容易に条文や裁判例などを読みこなすことができる(=試験に有利)ということになります。

法律の学習は体系の理解が大切と言われるところですが、法律を学んだことのある方でしたら、きっと特に説明を要することなくこの意味がお分かりになると思います。既にこの段階で、実は他の受験生よりいいポジションにいる、ということを知っていただくと良いのではないでしょうか。

弁理士試験合格後にも文系の強みが


でもそうは言っても、やっぱり弁理士って特許の仕事が多いのでは?特許の仕事というと理系では?と思われる方もいらっしゃると思います。

しかし、実は文系の弁理士というのはそれなりにいまして、2021年11月現在で2,168人(18.5%)が文系の弁理士となっています。

確かに、ボリュームゾーンとして「特許」と括ると大きくなってしまうのですが、「特許」と言っても電気、物理、機械、化学、バイオ、ソフトウェアというように、技術分野によって細分化がされています。

このように特許分野は細分化が進んでいますので、見方によっては特許分野だけ突出して人数が多いというわけではないとも言えます。

弁理士が医師に例えられることがありますのも、内科・外科・皮膚科・耳鼻咽喉科・歯科・・・というように、かなり細分化されていることをイメージしていただくと、なんとなくお分かりいただけるのではないでしょうか。

さて、特許以外の分野・・・意匠や商標、著作権といった分野は、実務的には技術そのものについての深い理解までは問われることが少ないうえ、どちらかというと法的思考力や文章力が重視される分野とも評されています。

意匠や商標については、単に出願を行うということだけでなく、あるデザインやマークを文章で説明することもしばしばあり、さらには、それが他のデザインやマークとなぜ似ている(似ていない)と言えるのかを、過去の裁判や審判の判断例に照らしながら説得的な文章を論述するといった業務もボリュームが大きいところです。

この意味で、上記のような意匠や商標という分野というのは、法学部などの文系の方が活躍しやすいフィールドではないかと思われます。

事実、意匠系・商標系の弁理士の多くは法学部(他に文学部や外国語学部など)の出身で、数多くの文系弁理士が活躍しています(僕もこのうちの一人です)。

知的財産の世界というのは、上でも書いた通り、非常に広い範囲にわたっています。この広い知的財産の世界全てを一人で対応するというのはなかなか容易ではなく、実際はそれぞれの弁理士の方のバックグランドや専門・得意分野に分かれて業務に当たっているというのが実情と言えます(特に都市部ではこの傾向が顕著です)。

司法試験と比較してみるとどうか


ここまで読んでみて、でも法律系資格の最高峰は司法試験・・・と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、司法試験は文系最難関と呼ばれる資格試験です。ですが、ご存じのように司法試験の合格のためには越えなければならないハードルがいくつもあります。

この記事は司法試験の記事ではないのであまり踏み込むことはしませんが、まず司法試験の受験資格を得るところからハードルがある点は触れておきたいと思います。

具体的には、司法試験を受けるためには、法科大学院を卒業するか、司法試験予備試験に合格するかのどちらかを満たす必要があります。

ですから、司法試験を受けようとする場合には、2〜3年を要する大学院に通うか、別の国家試験を受けなければならないという意味で、金銭的・時間的なロスが生まれます。

一方の弁理士試験は、前述のように受験資格はありません。つまり、受けようと思ったタイミングで受験することができます。

また、試験に合格をしてから登録をするまでの間に、司法試験も弁理士試験も「修習」というものを経る必要があります(司法試験は司法修習、弁理士は実務修習と言います)。

司法修習は1年間の修習期間が義務付けられており、しかも兼業が禁止されているので、会社や官庁に務めながらというわけには行きません(近年アルバイト程度は認められているようですが)。

一方の弁理士実務修習は、会社等に務めながらでも受けることができますし(土日だけ、あるいは平日夜間など、受講オプションがいくつかあります)、さらに修習期間が3ヶ月と、司法修習の4分の1の期間になっています。

受験から登録までの期間・負担がかなり違う


このように、司法試験と弁理士試験を比較すると、試験を受けようと思ってから登録するまで(バッジを得るまで)に必要な期間・負担というのが、弁理士試験の方がとても短く、かつ小さく済むというメリットがあります。

もちろん、司法試験を突破すれば弁護士のみならず検察官や裁判官への道も開かれる上、業務範囲は知財に限定されません。

しかし、もしこの記事を読まれているあなたが、商標や意匠といった、文系がむしろ得意とする知財分野での仕事に興味を持たれているようであれば、何も司法試験を突破する必要はないとも言えます。

加えて、もしあなたが既に社会人として働かれている場合、法科大学院や司法試験予備試験にトライして、無事に司法試験を突破したら今度は会社を辞めて、さらに1年間司法修習にあたるというのも、なかなかに大変なことではないかと思われます。

しかし弁理士であれば、前述のように働きながらでも取得することができます。

こうした点も、人生設計の際の比較検討のポイントになるのではないでしょうか。

知財に興味があればトライしてみよう


僕自身、弁理士試験には働きながら合格したわけですが、その経験を踏まえると、確かに楽であったとは言えません。しかし、仕事を辞める必要がなかったというのは、とても安心できましたし、却って仕事とのメリハリがついたとも思えます。

前述のように、司法試験と弁理士試験というのは、試験科目もさることながら、具体的に必要なアクションとしても大きな差がありますので、どちらを目指されるにしろ違いはしっかりと確認しておいていただきたいところです。

その上で、もし弁理士という職業に興味を持って頂けたら、ぜひ特許庁や日本弁理士会のホームページを覗いてみてください。

試験にトライしてみようかなと思われたら、まずは書店に行ってみるもよし、資格試験予備校に足を運んでみるのも良いでしょう。インターネットにも色々な情報が掲載されていますので、調べてみる価値はあると思います。

ただ、忘れないで頂きたいのは、例え何冊本を買っても、いくら予備校にお金を費やそうとも、合格させてくれるわけではありません。合格するためには、ご自身で受験勉強をきっちりやる必要があります。

努力する方向性が間違っていれば、どれだけ頑張っても合格しません。しかし、合格しさえすれば、それを使うも使わないも選ぶことができるようになります。ぜひ、あなたが信じる最短ルートで合格を掴み取っていただけたらと思います。

最後に少し宣伝ですが、僕自信は予備校に通うことなく独学で弁理士試験をはじめとする各種試験に合格していますので、当blogでは弁理士試験にどうやったら独学で合格できるかを不定期に更新しています。

過去記事は以下の通りですので、よろしければご覧ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

過去記事一覧


051:【受験生向け】弁理士f試験に独学で合格した話①「導入編」
052:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話②「なぜ独学を選んだか」
054:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話③「一発ずつ合格までの大まかな流れ」
055:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話④「難解な条文をどう扱うか」
056:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話⑤「難解な条文をどう扱うか|その2」
057:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話⑥「どのような教材を使うか」
058:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話⑦「どのような文房具を使うか」
061:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話⑧「合格に3000時間の勉強が必要なのか」
062:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話⑨「勉強しはじめの知識のインプット方法」
076:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話⑩「短答式試験は過去問集を読む」
086:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話11「短答式試験の準備段階と本番直前とでは別の過去問集を使う」
099:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話12「論文式試験のトレーニングは問題文の分析から」


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