日本では、商品やサービスの目印として現実に使っている商標だけでなく、これから使おうと思っている商標についても、出願をして登録を受けることが認められます。
言い換えると、ある商標について登録を受ける場合、現実に使用しているものばかりではなく、使用する意思(「意志」ではありません)があるだけで十分であるとされます。
このため、日本の商標実務に携わっているだけでは、ある商標登録出願が、「現実の使用」に基づくものなのか、それとも「使用の意思」に基づくものなのかは、あまり気にすること必要に迫られることがありません。
ところが、日本とはビジネス上切っても切ることのできない米国では、商標登録を受けようという場合、その商標が商品やサービスとの関係で既に使われているのか、それともまだ使い始められていないものなのかということが、「出願の基礎」というお話の関係で、とても大事なことになります。
目次
- 米国では「出願の基礎」は5種類ある
- 現実使用(Section 1(a):Use-in Commerce)
- 使用意思(Section 1(b):Intent-to-Use)
- 本国出願(Section 44(d):Home Application)
- 本国登録(Section 44(e):Home Registration)
- 国際登録(Section 66(a):International Registration)
- 使用していない商標は最終的には登録簿から抹消される
米国では「出願の基礎」は5種類ある
米国で商標登録出願をしようとする場合、出願の基礎(Filing basis)をどうするかというのは、欠かすことのできない話題です。
米国商標法上、①現実使用(Use-in Commerce)、②使用意思(Intent-to-Use, ITU)、③本国出願(Home Application)、④本国登録(Home Registration)、⑤国際登録(International Registration)の5つがあります。
それぞれ、必要な書類や手続き内容が異なるため、出願前に、どの基礎に基づいて出願をするかを検討する必要があります。
現実使用(Section 1(a):Use-in Commerce)
米国は、商標権の発生・継続のためには、商標が米国において指定する商品やサービスとの関係で、取引において使用されていることを要求する、いわゆる「使用主義」を採用する国です。
商標が、指定する商品やサービスとの関係で米国での取引において使用されていれば、この事実に基づいて商標登録出願をすることとなります。
この基礎は、米国実務上、もっともスタンダードなもので、出願時に使用証拠を提出することになります。
願書には、現実に使用している商品・サービスのみを指定することになります。
使用意思(Section 1(b):Intent-to-Use)
米国が使用主義を採用しているとはいえ、未使用の商標であっても、できるだけ早期に出願はしておくことが必要です。
商標登録の審査は、出願した日付を基準に進められますので、できるだけ早期に出願をしておかないと、他人が似た商標について出願をしてしまう可能性があるためです。
似たような商標を、他人が先に出願してしまい、これより遅いタイミングで自分が出願すると、他人の出願・登録が既に存在するということを理由として審査で引っかかってしまいます。
審査官が指摘する拒絶の理由が解消しないと、商標登録を受けることができなくなってしまいます。
米国では、2020年度は73.6万件の商標登録出願がされているので、毎日、決して少なくない件数が出願されていることになります。
つまり、出願が遅れることは、リスクが次第に高まるということを意味します。
こうしたリスクを考えると、米国への事業展開が見えてきた段階で出願をしておくべきですが、その時点ではまだ使い始めていないということが、しばしばあります。
このような場合、「現実使用」ではなく、「使用意思」に基づいて出願をすることになります。
使用意思による出願の場合には、出願時に使用証拠は必要ありません(というか出せません)。
出願をして、先に審査を受けて、使用証拠を出しさえすれば登録にしますよ、というところまで持ち込んでおき、使用を開始したら使用証拠を出す、という流れになります。
この「使用意思」の基礎は、出願の際に利用されるもので、登録を受けるためには、結局使用証拠を提出する必要があります。
使用証拠を出す段階で、出願の基礎を「現実使用」に変更することになります。
本国出願(Section 44(d):Home Application)
自分の居住・所在する国(本国)での商標登録出願がある場合には、これに基づいて米国で商標登録出願をすることが可能です。
本国出願に基づく米国出願は、本国で出願をした日から6ヶ月以内に行うことができるもので、本国の出願日を基準に米国で審査を受けることができるため、審査上は幾分か有利に働くことがあります。
ただし、本国出願に基づく米国出願は、出願しようとする商標が本国出願の願書に現れたものと一致する必要があるとともに、指定する商品やサービスも、本国出願の範囲内であることが必要です。
どちらも厳格に完全一致することまでは求められていないのが実情ですが、注意が必要です。
この「本国出願」の基礎も、出願の際に利用されるもので、登録を受けることができる基礎ではありません。
最終的には、本国出願が登録になり次第、本国登録証の提出を行い、次で説明する「本国登録」の基礎に切り替えて、商標登録を受けることになります。
本国登録(Section 44(e):Home Registration)
本国で既に登録を受けている商標であれば、本国登録に基づいて米国で商標登録を受けることができます。その本国登録証の写しと訳文を提出する必要があります。
ただし注意が必要なのが、米国で商標権が発生するためには、米国で商標を商品やサービスとの関係で、取引において使用することが必要です。
このため、米国で未使用の商標について、本国登録に基づいて米国において登録を受けたとしても、登録を受けただけでは商標権は発生しないので、注意が必要です。
国際登録(Section 66(a):International Registration)
マドリッド協定議定書(マドリッド・プロトコル)に基づいてなされた国際登録の保護範囲を米国に拡張することで、米国に商標登録出願を行うことができます。
扱いとしては、ほぼ「本国登録」に基づくものと近いですが、国際登録を基礎にする場合、本国登録証の提出は不要です。
ただし、「標章を使用する意思の宣誓書(MM18)」という別の書類を、国際出願(または事後指定)の際に提出することが必要です。
使用していない商標は最終的には登録簿から抹消される
繰り返しお伝えのように、米国は使用主義を採用しているため、米国では、商標を商品やサービスとの関係で米国における取引において使用していないと、商標権が発生しません。
そして、使用していない商品やサービスについては、商標登録を維持しておくことができません。
米国では、商標登録を受けてから5〜6年のタイミングや、商標登録の更新のタイミングで使用証拠を提出して使用宣誓を行う必要があり、これは、前記のどの基礎に基づく商標登録であっても、避けることができません。
もしこうしたタイミングで使用証拠が提出できない場合には、残念ながら商標登録は抹消されることになります。
ある商標登録で指定する商品・サービスの一部について使用をしていない場合、その使用していない商品・サービスは、使用宣誓のタイミングでリストから削除をすることになります。
使用証拠の提出のタイミングになって慌てることのないよう、日頃から商標をどこでどのように使っているかということを、社内で管理しておくことが望ましいといえます。
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