わかって納得の知財ブログ

055:【受験生向け】弁理士試験に独学で合格した話④「難解な条文をどう扱うか」

弁理士試験をどのように独学で乗り切って合格に至ったかをお伝えしています。過去記事は以下の通りですので、宜しければご覧ください。

051:弁理士試験に独学で合格した話①「導入編」

052:弁理士試験に独学で合格した話②「なぜ独学を選んだか」

054:弁理士試験に独学で合格した話③「一発ずつ合格までの大まかな流れ」

さて、今日のお題は「難解な条文をどう扱うか」です。僕は、法学部法律学科の出身ですので、他の学部学科出身の方よりは、弁理士試験合格前から法律の条文には馴染みを持てていたと思います。

しかし、です。既に勉強を始められている方は直面されているでしょうし、これから勉強を始めようと思われている方は知っておいて頂きたいのですが、知的財産権法の条文は、とにかく難解で、難読です。

かといって、これを克服しないことには、弁理士試験合格はないでしょう。予備校に行けばなんらかのコツを教えてもらえるのかもしれませんが、僕は独学でしたので誰も教えてくれません。周りに弁理士試験を受ける友人もいませんでしたので、完全に独自に考え抜いて編み出した克服法を、ここにお伝えしたいと思います。

知財関係の条文はほぼ難読|自分が理解できるカタチに整えることが大切

知財の条文を挙げる前に、対比の題材として、弁理士試験の選択科目の一つでもあり、かつ私法の基本法である民法の重要条文ををいくつか見てみましょう。

第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法第90条

第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

民法第177条

第四百六十七条 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

民法第467条

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第709条

いかがでしょうか。僕としては、民法の条文というのは、端的で、無駄なく美しく組み立てられていると思っています。

では、一方の知的財産権法の条文を見てみます。現段階で理解をしようとする必要はありませんが、特許法のと商標法から、受験生としては無視することができない重要条文を挙げてみたいと思います。

第十九条 願書又はこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定により特許庁に提出する書類その他の物件であつてその提出の期間が定められているものを郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号。以下この条において「信書便法」という。)第二条第六項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項に規定する特定信書便事業者の提供する同条第二項に規定する信書便(以下「信書便」という。)の役務であつて経済産業省令で定めるものにより提出した場合において、その願書又は物件を日本郵便株式会社の営業所(郵便の業務を行うものに限る。)に差し出した日時を郵便物の受領証により証明したときはその日時に、その郵便物又は信書便法第二条第三項に規定する信書便物(以下この条において「信書便物」という。)の通信日付印により表示された日時が明瞭であるときはその日時に、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日時のうち日のみが明瞭であつて時刻が明瞭でないときは表示された日の午後十二時に、その願書又は物件は、特許庁に到達したものとみなす。

特許法第19条

第二十九条の二 特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であつて当該特許出願後に第六十六条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行若しくは出願公開又は実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第十四条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第一項の外国語書面)に記載された発明又は考案(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。

特許法第29条の2

第三十二条 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
2 当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。

商標法第32条

それぞれ、一つの条文でこのボリュームです。いかがでしょうか。

このように、知財関係の条文というのは、細々と要件が規定されていて、さらに条件や例外が複雑に入り組んで規定されています。上記に挙げたものは、あくまでも例で、こうした難読条文がいくつも出てきています。

とすると、まず勉強に取り組もうとして入門書を読んでみて、根拠となる条文に当たろうと思った時に、心を打ち砕かれること請け合いではないでしょうか。少なくとも、法学部法律学科卒の僕でさえ、初めて見たときにはとても萎えました。この長い条文は、一体何がどう規定されているのだろうかと、混乱したことも一度や二度ではありません。

こうした悩みをどう解決するか。これは、大きく2つのコツがあって、一つは「素読」です。もう一つは「塗り分け」です。

素読は自分の言葉でインプットするためのもの

素読(そどく)は、実際のところ、僕は口述式試験の直前期に取り組んだものです。正直、もっと早く取り組んでいれば、もっと早く合格できたのではないかと思うくらい、威力が抜群の勉強法です。

威力は抜群ですが、やることは簡単です。条文を音読する、ただそれだけです。もちろん、棒読みでは意味はないでしょうけれど、条文の構造を考えながら、主体・客体・時期・手続(略して「主客時手」なんていうようです。)がどうなっているかを理解しようと考えながら音読をします。

目で読んでいる時と異なり、口でしゃべりながら耳で聞き、目で追うことから、黙読する時と比べてより多くの情報を多面的に受け取ることができます。これにより、黙読していた時には気がつけなかったことに気がついたり、理解が進んだりということが少なくありませんでした。

これは、嘘のような本当の話で、騙されたと思ってやってもらえたらいいと思います。

塗り分けは直感的に条文の構造を理解するためのもの

もう一つのコツである「塗り分け」ですが、これは、前記の素読と相まって、条文がどういう構造をしているのか、どういう要件を規定しているのかを理解して記憶することに非常に役に立ちます。

先に、「主客時手」と書きましたが、知財関係の条文を理解するには、この「主客時手」をちゃんと押さえることが極めて重要になります。

主体で言えば、この条文は誰の行為を規定してるのか・・・つまり、条文はそれぞれ、「出願人は」なのか「審査官は」なのか、それとも「審判長は」なのかなど、行為の主体が丁寧に書き分けられています。応答期限などの時期的要件も重要ですね。

また、知財関係の条文は、括弧書きと但書が多用されているというのも特色かと思います。ただ、括弧書きも但書も、ものによって、例外を定めているものもあれば、追加的な条件(例えば特許法第96条)が書かれているというものもあり、実は一枚岩ではありません。

僕は、こうした複雑な条文を少しでもわかりやすくするために、「主体」をピンク色、「時期」を青色、「括弧書き」を緑色、「ただし」を紫色、「除外」(「〜を除く」や「〜はこの限りでない」)をオレンジ色というように、塗り分けを行いました。塗り分けのやり方は、何度もバージョンを改め、その都度どういう塗り分けがベストかを考えてきましたが、最終的にこのカタチに落ち着きました。

塗り分けのやり方は、あとから自分が重要と思ったところを黄色マーカーや赤ペンで加筆できるように、マーカーペンを天地逆にして、太いペン先の細い角で塗っていくのがミソです。こうすることで、マーカーのインクの節約にもなりますし、全体として綺麗に塗ることもできるようになります。

どこにどの色を使うのかということは、お好みでいいかもしれませんが、あまりキツい色を使うと、条文集がうるさくなるので、マイルド目の色味を使う方がいいだろうと思います。

道具にこだわるとともに、道具の使い方にもこだわる

このように、条文集一つをとっても、いかに理解しやすく記憶に残しやすいかを考えてカスタマイズをしてきました。こうした作業を通じて、全体的な条文構造の把握にも把握にも一役買っていたのだろうと思います。

マーカーペンひとつ、条文集ひとつと侮らず、どうやったら勉強が捗るかを考えて使い方を考えることが大切になります。


<<お問い合わせはこちらから>>

この記事の内容について詳しくお知りになりたい方は、
以下のボタンからお気軽に当事務所までご連絡ください。


にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ
にほんブログ村 ランキング参加中です!

PAGE TOP