昨日の記事では、商標登録出願のファーストトラック審査についてお伝え致しました。
過去記事はこちら
066:【初心者向け】商標のファーストトラック審査を活用して早期登録を目指す
上の記事でも書いていますが、ファーストトラック審査を受けるためには、いわゆる「基準等表示」の中から商品やサービスを選んで出願する必要があります。
「基準等表示」というものがある以上は、「基準等表示」以外のものがあることもなんとなくイメージは湧くかと思います。ご想像の通り、「基準等表示」以外にも採択可能な表示というものはあります。
日本は、中国のように厳格な運用を採っていないので、たとえ特許庁が公表するリストにない商品・サービスの表示でも、審査の結果明確だと認められれば、比較的柔軟に商品・サービスを指定することが認められます。
では、柔軟に指定することが認められるとして、そのメリットや活用場面というのはどうなっているのでしょうか。
目次
- 確実な保護のためには権利範囲(指定する商品・サービス)の設定は慎重に
- 基準等表示で十分かどうかは専門的な判断が必要|積極表示とは
- 先進的なモノ・コトは積極表示がマスト
- 特殊な商品・業態も積極表示が必要
- 国際出願を見据えると積極表示をしておくべき
- 後から追加できないからこそ出願時の作り込みが大切
確実な保護のためには権利範囲(指定する商品・サービス)の設定は慎重に
特許庁が予め定めるものとして、「基準等表示」というものがあることは繰り返しお伝えのとおりですが、そのリストに挙げられている商品やサービスでは、実際に使用する商品・サービスがカバーされているか分からないという場面が出てきます。
しかし商標権は、自ら設定した権利範囲で認められる独占権ですので、その権利範囲の設定がずれていると、ちゃんとした保護が得られないということにもつながりかねません。
ですので、実際の商品・サービスが確実に保護されるよう、権利範囲の設定は慎重に行う必要があります。
基準等表示で十分かどうかは専門的な判断が必要|積極表示とは
もちろん、ご自身の商品・サービスが「基準等表示」にズバリあるものであれば、それを指定することで足りるという場合もあるでしょう。そうすれば、ファーストトラック審査にも乗りますし、保護範囲も十分ということになりますので、一石二鳥です。
しかし、世の中そういうケースばかりではありませんので、本当に「基準等表示」だけで問題ないかということの検討が欠かせません。
そして、もし「基準等表示」では不十分ということであれば、保護を求める商品・サービスを願書の中に積極的に表示していく必要があります。
この、積極的に表示した商品・サービスのことを、業界では「積極表示」と呼んでいます。
「積極表示」というのが、一体どういう場面で必要になるのか、いくつか例をあげてみていきたいと思います。
先進的なモノ・コトは積極表示がマスト
昨今のDX化の波もあり、一昔前では想像がつかなかったような新しい商品・サービスがどんどん生み出されています。
これまでに存在しなかった商品やサービスというのは、当然のことながら特許庁が予め定める「基準等表示」には載っていません。
もしこうした最新の商品やサービスの保護を求めようとする場合に、「基準等表示」だけで出願をするとどうでしょうか。もちろん、「その範囲のものならば保護される」ということにはなるでしょう。
しかし、「その範囲のものならば」という条件付きのものとなります。
いざ紛争になった場合に、ご自身の商品・サービスがこういうものだということを説明する必要が出てきます。
そして、その結果、実は権利範囲の設定がおかしかったり不十分だったということも、当然リスクとして想定しておく必要があります。
こうしたリスクというのはどこで避けられたでしょうか。
既にお分かりかとは思いますが、そうです。出願時に「基準等表示」だけでなく、「積極表示」をすればよかったのです。
「積極表示」をするというのは、ファーストトラック審査に乗れなくなるので、デメリットと感じられるかもしれませんが、権利を取ったはいいけれど、後から「使い物にならなかった」なんてことになるよりずっといいと思いませんでしょうか。
一つ具体例をあげようと思います。積極表示をした好例が、次の表示です。
「マット状の足型測定器及び足型測定用機械器具」
登録第6161842号商標
これは、「ZOZOMAT」という登録商標の指定商品です。とても具体的に書かれていますね。
もちろん、指定商品はこれだけではなく、他にも多重的に書かれています。
これまでにない斬新な商品やサービスこそ、積極的に表示をしていくことの重要性が伝わったでしょうか。
特殊な商品・業態も積極表示が必要
以上はこれまでにない新しい商品・サービスの場面ですが、それだけではありません。
一般的によくある業種業態というのは「基準等表示」に挙がっていますが、あまり例が多くない特殊なものだと、掲載されていないものもあります。
こうした場合も、やはり「積極表示」をしていく必要があると言えます。
例えば、以下のようなものは、「基準等表示」にないものですが、「積極表示」として認めてもらえるものです。
- カジノゲーム用チップ
- カフェオレ
- ヨーグルトドリンク
- オンラインゲーム大会の企画・運営
- 仕出し料理の提供
いかがでしょうか。必ずしも特殊とも言い切れない、身近なものもありますね。ですが、これらはどれも「基準等表示」にはないものです。
少なくとも主力商品については、「積極表示」でしっかりと特定していきたいですね。
国際出願を見据えると積極表示をしておくべき
さらに、そのブランドについて、いつかは海外展開も考えているという場合も、少なくとも主力商品は「積極表示」をしておくべきと言えます。
海外展開をする場合には、国際出願の活用も視野に入ってきますが、国際出願をする場合には、基礎となる日本の登録の範囲内で進める必要があります。
しかし、いざ国際出願をしようとしたときに、基礎となる日本の登録が不十分だと、英語に書き起こした時に指定したい商品・サービスが、基礎の範囲外として指定できないという場面が出てきます。
例えば、日本の出願で「化粧品」と「化粧用具」を指定していたとしましょう。
しかし、実は主力商品が「化粧用綿棒」である場合に、国際出願で「cotton swabs for cosmetic purposes(化粧用綿棒)」を指定すると、特許庁に拒絶されます。
日本語の雰囲気的には、「化粧品」や「化粧用具」の範疇では?と思われるかもしれませんが、商標実務上は、「化粧品」や「化粧用具」の範囲内(つまり下位概念)としては整理されていません。
つまり、基礎の範囲を超えているということで、国際出願で「化粧用綿棒」を盛り込むことができません。
なんとなくのイメージで「化粧品」や「化粧用具」の範疇だろうと早合点すると、結局もったいない(再出願をしないと国際出願できない)ことになりかねませんので、こうした部分は、出願前に、ちゃんと専門家に相談しておくことが重要と言えます。
なお、「化粧用綿棒」が主力商品である場合、「化粧品」と「化粧用具」の指定では、そもそも不十分ですので、実は国際出願をしなくとも、日本の権利も取り直す必要があるのでお気をつけください。
後から追加できないからこそ出願時の作り込みが大切
なお、意外と誤解されがちなので追記しておきますと、願書に記載した内容については、後から範囲を狭めることはできても、拡大することはできません。
ですので、出願段階で盛り込みそびれたものについて、後から保護を求めようとすると、再度願書を提出し直す必要があります。
再度願書を出し直すということは、出願日が繰り下がることにもなりますので、可能な限りこうした事態は避けるべきです。
よって、出願をする前の段階で、願書に何を盛り込むのかということをしっかりと考えていく必要があります。
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