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075:【事業者・自治体向け】「ピーポくん」入りの名刺が商標権侵害として逮捕された事件について

先日、「名刺に『ピーポくん』お値段1千円? 商標法違反容疑で男を逮捕」というネットニュースが飛び交いました。

少し商標法を学ばれたことのある方であれば、名刺における商標の表示は「商標的使用」にはならないのが原則では?と思われたかもしれません。

今日は、「商標としての使用(商標的使用)」と、今回の逮捕の関係について見ていきたいと思います。

もちろん、商標法なんて勉強したことないという方でも大丈夫なように、しっかりとかみ砕いていきますので、ご安心くださいね。

目次


  • 名刺での商標の表示は商標的使用にならないことが多い
  • 「ピーポくん」の商標権はかなり広範囲に及ぶ
  • 「ピーポくん」の商標権者は東京都
  • 今回の事件は名刺が商品だった
  • 販売目的所持でも故意であれば刑事罰も

名刺での商標の表示は商標的使用にならないことが多い


商標登録を持っていれば、登録商標をどう使うことにも権利行使ができる、というものではありません。

たとえ登録商標と同一の商標であっても、指定する商品・サービスと似ていない(非類似の)ものについての使用であれば、権利行使はできません。

また、その商標の使用が、「その商品について」あるいは「その役務について」使うものでなければ、そもそも「商標としての使用」にはなりません。

このため、ある行為が商標権侵害になるかということを考えるときには、商標の使い方が「商標としての使用」になるかを考えなければなりません。

それでは、ビジネスにおいて「名刺」に商標を表示することは少なくありませんが、これは「商標としての使用」に当たるのでしょうか。

世の中には、名刺そのものが、自社が販売・提供する商品やサービスのチラシやリーフレットのような役割を果たしているものもありますが、多くは、具体的な商品やサービスとの関連性が不明なものばかりです。

つまり、単に名刺に商標を表示するだけでは、具体的な商品やサービスとの関連性がなく、「その商品について」あるいは「その役務について」使っているとは言えないということになります。

また、名刺それ自体を販売しているものでもありませんので、印刷物としての商品に使っているとも言えません。

そうすると、名刺における商標の使用は、多くは商標的使用に当たらず、他人の商標権があったとしても、商標権侵害にならないことになります。

それでは、なぜ今回、「ピーポくん」の表示がされた名刺の所持が、商標権侵害で逮捕につながったのでしょうか。

「ピーポくん」の商標権はかなり広範囲に及ぶ


このことの答えを書く前に、少し「ピーポくん」の商標権について見てみましょう。
特許情報プラットフォームで検索をすると、次の3件がヒットします(クリックすると詳細が見れます)。

登録内容を見てみますと、登録している区分は第9,12,14,16,18,20,21,24,25,26,28,41類と、12区分にまたがっており、広範囲にわたっています。

確かに、運転免許試験場の売店に行くと、様々な「ピーポくん」グッズが売られていますので、適切な対応がされている印象です。

「ピーポくん」の商標権者は東京都


さて、この警視庁のマスコットキャラクターですが、権利者は「東京都」になっています。

たとえ官公庁・自治体であっても、業として商品を生産し、証明し、又は譲渡したり、あるいは業として役務を提供し、又は証明したりする場合には、その商品やサービスとの関係で使用する商標は、登録を受けておかないと、商標トラブルに巻き込まれてしまいます。

官公庁や自治体は非営利だから商標登録は必要ない、というのは誤解です。地域・組織のキャラクターはもちろん、使用する「それ」が商標であれば、商標についてのクリアランスが必要です。

仮に侵害行為があれば、今回のように商標権で対処ができますが、商標権を持っていないと、侵害者(権利がなければ侵害も何もないのですが)に「お願い」をするくらいしか対処のしようがなくなりますので、官公庁・自治体として適切な対応が取れていたかが、後から議会などで問題になることもあり得ます。

こうしたことから、官公庁や自治体が商標権を取得するということには、大きな意味があると言えます。

今回の事件は名刺が商品だった


このように、東京都が商標権者である「ピーポくん」商標は、広範囲にわたって商標登録されていますが、今回問題となったのは、「名刺」そのものが商品として販売されることを前提に所持されていたためです。

いわゆる販売目的所持は、商標法の次の条文で商標権侵害だと規定されています。

第三十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 (略)
二 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為

商標法第37条第2号

ここで、商品「名刺」は、上記の商標登録のうちの指定商品にある「印刷物」に類似する商品と考えられますので、本件は、登録第4480025号商標との関係で問題視されたものと考えられます。

ここで思い出して欲しいのが、冒頭に触れた「名刺での商標の表示は商標的使用にならないことが多い」ということとの関係です。

繰り返しますが、今回逮捕されたのは、販売目的で「ピーポくん」を表示した名刺を所持していたという疑いが持たれているためです。つまり、商品としての名刺を所持していたということです。

前述の通り、名刺上での商標の使用は、原則として商標権侵害にならないと考えられますが、このことと名刺それ自体を商品として取り扱うことというのは、別のことだと、誤解がないようお気をつけください。

なお、名刺における商標の使用が類型的に商標権侵害にならないからといって、他人のブランドを勝手に使っていいことにはなりません。商標法の他にも、不正競争防止法という別の法律が待っていますので、フリーライドはくれぐれも控えましょう。

販売目的所持でも故意であれば刑事罰も


商標権を侵害すると通常は、民事的な手続きで、差止請求や損害賠償請求がなされることが多いですが、侵害行為が故意でされる場合には、刑事罰の適用もあります。

今回は、販売目的所持ですので、第37条の侵害行為をしたということになり、起訴されることになれば、次の条文が適用されることになるでしょう。

第七十八条の二 第三十七条又は第六十七条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

商標法第78条の2

5年以下の懲役か、500万円以下の罰金か、あるいはその両方ですから、かなり重い刑罰です。
参考まで、5年以下の懲役というと、業務上過失致死傷や人身売買、背任、横領といったものが挙がります。

知らなかったでは済まされない商標権侵害です。くれぐれもご注意ください。


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