わかって納得の知財ブログ

100:【個人・事業者向け】商標権・育成者権・意匠権・著作権の複合的活用による野菜・果物などの農作物・農産品のブランディング・知財ミックスについて

いよいよこのブログも100本目の記事を迎えました。日頃よりご覧いただいている読者の皆様には感謝申し上げます。
さて今日は、いわゆる農水知財をテーマに、多種類の知的財産権をどのように活用するのかという点を掘り下げたいと思います。
記事内容としては農作物ということになっていますが、他の業種・業態でも応用が効く考え方なので、ぜひお読み頂ければと思います。弁理士試験の受験生にとっても、勉強している知的財産がどのように活かせるのかということを知っていただけるテーマではないかと思います。

目次


  • 知的財産とは多義的なもの
  • 商標法の観点〜ブランドの保護〜
  • 種苗法の観点〜植物新品種の保護〜
  • 意匠法の観点〜デザインの保護〜
  • 著作権法の観点〜コンテンツの保護〜
  • 近年流行りの「知財ミックス戦略」

知的財産とは多義的なもの


以前の記事でも書いたかもしれませんが、ひとくちに「知的財産」と言っても、その内容が特定されるものではありません。

知的財産というのは、知的財産基本法に定義が書かれており、幾つもの種類に細分化がされているものです。

第二条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。

知的財産基本法第2条第1項

ある商品・サービスを知的財産で保護しようとする場合、どの知的財産的側面からアプローチを行えば適切に保護ができるかを考えることは、非常に大切な思考である一方、専門的な事柄でもあり、誰でも簡単に判断ができるかというと、必ずしもそうではないかもしれません。

必要に応じて専門家の知識・経験を活用しながら、適切な保護を自ら取りに行くという姿勢が、企業には求められていると言えます。

この記事では、「農作物」をテーマとして、どの知的財産的側面からアプローチを行うことが有用であるかを、権利の種別ごとに見ていきたいと思います。

商標法の観点〜ブランドの保護〜


商標は、商品やサービスの目印です。果物や野菜といったご自身の農作物を、他の生産者が生産・販売する農作物と区別するために付されるネーミングやシンボルマーク、キャラクターイラストは、いずれも商標になります。

自分で決めて自分で付けているのだから自分の勝手だというのは早計です。

商標法には、「商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。」と規定がされていますので(商標法第25条本文)、この権利を侵害することは許されません。

農作物それ自体はもちろん、それを原材料とした加工品(ジャムや乾き物など)も、それぞれ範囲を特定して、商標権を確保する必要があります。

例えばいちごのブランドである「スカイベリー」は、いちごそれ自体(一次産品)のみならず、加工品(二次産品)の範囲までしっかりと商標権を確保しています。

商標権を確保しようとした時点で、似た商標について既に他人が商標権を保有している場合、ご自身で出願をしても特許庁に拒絶されますし、その他人に気が付かれた場合には権利行使を受けることもありますので、直ちに商標変更が必要になります。

商標は、最初に出願をした人が優先するという早い者勝ちの制度になっていて、先に使っていたかということは考慮されないに等しいです。

農作物にネーミングやシンボルマーク、キャラクターイラストを付そうという場合には、いち早く特許庁に出願することが必要です。

種苗法の観点〜植物新品種の保護〜


農作物は、育成のためには多大な労力と時間がかかる一方で、種や苗さえ手に入れば簡単に増殖ができてしまいます。

ご自身が育成した農作物が、他の品種と比べて特徴的な形質を有している場合、農林水産省に出願をして登録を受けることにより、独占的な保護を受けることが可能です。

品種登録を受けることで育成者権を取得することができ、最長25年(樹木は30年)の間保護を受けることができますので、新しい品種を育成された場合には、育成者権の取得を検討しましょう。内容によっては、特許権での保護も併せて検討しましょう。

なお、品種登録を受けるためには、業として譲渡をした日から1年以内(国内譲渡の場合)に農林水産省に出願をしなければならないなどの各種の要件がありますし、また出願のための資料として成長過程を示す写真が必要になるなど、準備に時間を要するものでもありますので、ご希望の場合には、先を見据えた対応が望ましいと言えます。

意匠法の観点〜デザインの保護〜


近年、農作物をそのまま販売するのではなく、凝ったパッケージに入れて販売される野菜・果物が増えたように感じます。

独特なカットを施したプラスチック素材のパッケージというのが典型的なものと言えそうですが、こうした包装用の容器のデザインというのも、知的財産として保護されていることがあります。

根拠となるのは意匠法という法律で、製品の外観デザインなどを保護するものです。

意匠法には、「意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。」と規定がされていますし(意匠法第23条本文)、意匠登録されていないものであっても不正競争防止法という別の法律の問題があり得ますので(不正競争防止法第2条第1項第3号)、他社商品のパッケージをそのまま真似するのは危険であると言えます。

ご自身の農作物のパッケージがこれまでにないものである場合、意匠登録を受けることでそのパッケージデザインを独占することができます。

また、意匠登録を受けられるということを裏返せば、他人の意匠権を侵害しないということの裏付けとも言えます。

ブランディングの一環として、積極的に意匠登録を受けるようにしてみることも有効だと言えます。

著作権法の観点〜コンテンツの保護〜


上の商標法のところで、キャラクターのイラストを商標登録しましょうとお伝えしましたが、イラストというのは著作権でも保護されるものです。

また、農作物を美味しそうに工夫を凝らして撮影した写真というのも、同様に著作権で保護されるものになります。

著作権を侵害するというためには、単に似ているというだけでは足りず、侵害していると疑われているものが他人の著作物に依拠して創られたものである必要があります。

この意味で、依拠を必要としない商標権は、非常に強力なツールであると言えますが、他方で著作権は、権利範囲の設定が必要ないものであり、ある面では商標権よりも使い勝手がいい権利であるとも言えます。

ご自身の農作物との関係でどのようなコンテンツ・作品が用いられ、それが著作権法でも守っていくことができるのかというのは、把握しておく必要があると言えます。

なお、こうしたコンテンツ・作品が、ご自身で創作したものではなく、他人が創作したものである場合には適切な契約を結ぶ必要がありますし、場合によっては文化庁に登録をした方がいいという場合もあります。

近年流行りの「知財ミックス戦略」


この数年、以上検討してきたような各種の知的財産権を複合的に活用して保護をし、ブランディングを図っていこうという取り組みが活発化していて、「知財ミックス戦略」と呼ばれています。

「知財ミックス戦略」というのは、一種の流行りに近いもののようにも思われ、内容としては特に目新しいことはないのですが、これからの日本の国際競争力を維持・向上させていくためには必要な考え方であると言えます。

もっとも、知的財産の保護のためには相応の費用がかかることも事実です。

当事務所では、グローバル視点での知的財産の保護を積極的に推進するため、資金調達・戦略策定・社員教育といった、権利化業務のみならず、その周辺サポートも行なっています。

商品のリニューアルや新商品の投入、事業承継・M&Aなど、事業を行っていると何らかの節目を迎えることがありますが、これまで知財に頓着されてこなかった方も、こうしたタイミングをきっかけとして、知財によるブランディングを進め、競争力を高めて行っていただけたらと思います。


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