令和2(行ケ)10006知的財産高等裁判所:審決取消訴訟(4条1項8号:一連一体かつ無間隔に大文字で書した欧文字が同号に該当するか)

日本では、他人の肖像や氏名などを含む商標は、その他人の承諾を得ない限り商標登録を受けることができないこととされています。

この事件では、一連一体かつ無間隔に書した欧文字につき、4条1項8号にいう「他人の氏名・・・を含む」ものであるかが争点となりました。

本件は、「TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.」の欧文字からなる上記商標(商願2017-126259)についての行政事件で、出願人である原告が様々な主張を展開したところ、知的財産裁判所は次のように判断しました。

我が国では,パスポートやクレジットカードなどに本人の氏名がローマ字表記されるなど,氏名をローマ字表記することが少なくなく,全ての文字を欧文字の大文字で記載することも少なくなく,また,その場合,従来,名前,姓氏の順で記載することが広く行われていたと認められることを考慮すると,本願商標の構成のうち「TAKAHIROMIYASHITA」の文字部分は,「ミヤシタ(氏)タカヒロ(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであり,本願商標は「人の氏名」を含む商標であると認められる。

姓氏と名前を2段に分けて表記したり,姓氏と名前との間に空白を入れて表記したりする例が存在し,それらがパスポートやクレジットカードの例であること(甲5,6)から直ちに,そのような表記でなければ人の氏名であると理解されないとはいえず,また,姓氏と名前の頭文字のみを大文字で記載する例があること(乙7,8,10)から直ちに,そのような表記でなければ人の氏名であると理解されないとはいえない

日本国政府が公文書において令和2年1月1日から原則として姓氏,名前の順とすることを決定するなどしたこと(甲11の1・2)から直ちに,姓氏,名前の順でなければ氏名をローマ字表記したものと理解されなくなるものでもない。

同号は,氏名及び名称については著名でなくとも当然にその主体である他人を指すと認識されることから,当該他人の氏名や名称の著名性や希少性等を要件とすることなく,当該他人の人格的利益を保護したものと解される。

このほか、出願人は、

① 同程度に周知,著名性を獲得したブランドであるにもかかわらず,他人の現存の有無といった出願人(ブランド使用者)の関与し得ない要素によって承諾の要否や承諾が必要な数が異なり,登録可能性に差異が生じる旨,② 氏名をローマ字表記する場合は,承諾の対象者が広く,他人の承諾を得ることが困難であるから,氏名のローマ字表記が相当珍しいものでない限り,商標登録が事実上不可能となる

と主張を展開しましたが、裁判所は、

上記①及び②のようなことが一定程度生じることは,予定されているというほかなく,そのことを直ちに公平でないとか商標法1条の目的に反するということはできない。

と一蹴し、さらに、出願人がした

③ 上記のようなブランドに係る商標は,それがファッション分野の商品に使用されると,当該デザイナーのブランド表示として客観的に把握されるから,同じ読みの氏名の他の者を想起,連想させるものではなく,当該他人の人格的利益が毀損されるおそれはない

との主張に対しては、

同号が具体的な人格的利益の侵害又はそのおそれを要件として定めるものではないことからすると,上記③のような場合には同号に該当しないと解することはできない

として、出願人である原告の主張は、いずれも退けました。

この事件は、例え間を開けずに欧文字で書した文字列からなる商標であっても、人の氏名と認識される以上は他人の承諾がなければ商標登録を受けることができないと判断されたものとなります。

判決文はこちらからご覧ください。

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