商標の保護は、商標登録を受けることにより発生する商標権に基づきます。
商標権を持たずに商標を使っていると、他人から商標権侵害として差止請求を受けたり、損害賠償請求を受けたりします。
一方、商標権を持っていなくとも、先使用権により継続的な使用が認められる場合があります。
しかし、先使用権が認められるには、他人の商標登録出願の時点における周知性が必要であるとされます。
この事件では、約28年間にわたる継続的な商標の使用のうち、原告による商標出願前の約8年半の商標の使用により、先使用権が認められるかが争点となりました。
本件は、「夢」の漢字からなる上記商標(登録第号商標)についての侵害事件で、被告は事業承継前の主体による使用を含めた長期にわたる継続使用を根拠として先使用権を主張して争ったところ、東京地方裁判所は、次のように判断しました。
被告商品は,千葉県及び東京都を中心に出荷されているところ,そのうち,千葉県に限っても38もの酒造会社が存在しており,また,東京都が日本酒の日本最大の市場であることは当裁判所に顕著であるから,それらの地域において,多数かつ多種の日本酒が販売されていることがうかがわれる。また,前記(1)イによれば,被告商品は,被告が販売する約20種類の日本酒のうちの一つにすぎず,かつ,被告における代表的な銘柄というわけでもない上,被告商品の年間の売上げはさほど高額とはいえず,旧東薫酒造及び被告の総売上高に占める割合も小さい。
被告商品の販売開始から原告商標の登録出願日である平成11年9月20日までに約8年半の期間が経過していたことを考慮しても,同日当時,被告各標章が被告の業務に係る商品を表示するものとして需要者である日本酒の購入希望者の間に広く認識されていたとは認めるに足りず,本件全証拠によっても,他に被告商品が周知であったことをうかがわせる事情は認められない。したがって,被告各標章につき先使用権(法32条1項)は認められず,被告の上記主張は理由がない。
として、被告側の主張は退けられました。
この事件は、単に長期間営業してきたという事実のみでは先使用権は認められないことを示したものとなります。
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